桜の森の満開の下

桜の森の満開の下 (講談社文芸文庫)

桜の森の満開の下 (講談社文芸文庫)


本を読むことよりも一々感想を書きとめる方が大変なんですよね。

坂口安吾の小説は、どうも苦手だったんですが、この短編集は全力で推します。
しかしながら本体1400円という文庫にしては異常な価格。やるな講談社

全部触れると明日のバイトの面接に遅れるので、今日のところは表題作だけ。
山賊であるところの男と、都に住んでいた女が(鬼)が桜を挟んで、ちょうど風車の両端に置かれたようなかたち(あるいは歌舞伎の回り舞台の裏と表のような塩梅)で配置されている。
野にして粗略である生活を常としてきた男の理屈は、女のそれとはそぐわない。ならば、肉体的な力関係からして男が女を服従せしめるのが道理だという気がするが、本作はそのようには進まない。たとえば「外套と青空」の中でいい歳の男が常に女に振り回される、そういう関係性の延長にこの作品はある。


もし本作が桜という道具立てを使っただけの「外套と青空」であったならば、自分はかなぁあああり興ざめしたかもしれないが、さにあらず。
作中において、女が死体で行う人形劇のシーンと、鬼も男も桜の花びらとなって虚空に消えていく幕切れが異常なほどの美しさと鮮烈さを伴っている。これは、現代よりも隔たった時代に、女と桜と鬼という三つを配したからこその表現であるだろう。

夢枕獏氏のエッセイで、「桜の森の満開の下」を読後に思いっきりそれにインスパイアされた作品を書いてしまったという記述があるけれど、このイメージには多少なりとも感化されるのは仕方ないという気がする。うん。すごいよ。